アコギな雑感

麺とアコギをこよなく愛するデザイナーのブログ

弦は緩めるべきか

アコギの保管方法で決着のつかない議論、
その一つが「弾かないとき弦は緩めるべきか」という問題です。

僕的結論:「移動の時はベロベロに緩めるが、通常の保管はドロップチューニング」


緩める派と緩めない派は、どういう論旨を展開するか。

緩める派の論旨。
「レギュラー・チューニング時、トップ板にはおよそ70kgの張力がかかっている。
 このときトップ板は、ちょうど太鼓の皮をパンパンに張った状態になっており、
 トップ板が湿度により腫れ上がる危険性が高い。したがって、弾くとき以外は
 弦を緩めるべきである。」

緩めない派の論旨。
「ギターは、レギュラー・チューニング時の70kgの張力を前提に設計されている。
 トップ板と側板接着面の緩やかなアーチやブレイシングのアーチ加工など。湿度
 管理の必要はあるが、いつでも弾けるような状態を整えることが、結果的に優れ
 た管理方法であり、理想的な音の成長が望める。」

まず、前提条件として「湿度を適正に保つこと」が重要だとしたうえで考えます。

そうすると、弦の張力によって異常が出てくるギターは、本質的に構造的欠陥を
抱えていると、僕は考えます。

クラシックギターは、弦を張り替える場合も極端にテンションが変わらないように
1弦ずつ換えていくといいます。自動車のタイヤ交換のさいに、ボルトを対角線上
で締めていくのと同じように、6,1,5,2,4,3というふうに1弦ずつ交換するのが良い
とされています。

これは、緩めない派のいう「トップ板は一定のテンションを前提とした設計」の考
え方に基づいているようです。たしかにパンパンに張ったものを、突然緩めてしま
うのは明らかに危なそうですね。

変則チューニングを多用するとき、チューニング後しばらくは音程が定まらないこ
とを実感できます。これは弦の張力が変わったことで、ネックやトップが動いてい
ることを意味します。完全に緩めてしまうとトップ板は落ち込み、ネックは逆ゾリ
状態になってしまうわけです。

ですから、長期にわたってギターを手にしないならともかく、1日2日の頻度で
締めたり緩めたりを繰り返すことは、木材にとって好ましいことではない、と
考えられるのです。

しかし、です。
ギターはそもそも高温多湿の気候の中で生まれた楽器ではありません。
グローバルでユニバーサルな考え方が蔓延している現在、こうした地域性を理解し
ている人は案外と少ないものです。

どんなに便利になったからといって、例えば三味線をアメリカに持っていっても、
三味線本来の音は再現できません。高温多湿、畳敷きに襖や障子という音響環境
のなかで三味線の音は力を持つのです。

日本の環境は、ギター設計の「想定外」の環境なのです。

「ギターは人と同じである。自分が蒸し暑いと感じれば換気をしたり除湿する。
 乾燥してると感じれば加湿する。それがギターにとっても良い状態だから
 特段に配慮する必要はない」

という意見を聞きます。しかし、僕たちが普通の日常を過ごすためには、四六時中
ギターの近くにいることはできません。また、必要以上に冷暖房を使ってしまう人
もいるわけですから、気がついたら乾燥しすぎていたということもあるはずです。

ということは、前提条件であった「湿度を適正に保つこと」は、ほぼ無理なのです。

したがって、トップにはある程度のテンションをかけるが、レギュラー・チューニ
ング時の70kgよりも軽減しておく、という方法を僕は選びました。

現在、6弦からCDDGDDのチューニングで保管しています。