アコギな雑感

麺とアコギをこよなく愛するデザイナーのブログ

エンストするカーブのはなし

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怪談ってどうしてオチをつけたり、因縁話にしてしまうのだろう。
たしかに「そこでは昔~」みたいに言われると「なるほど」と思ってしまう。
なんで「不思議な体験」を「不思議な体験」で終わらせたらダメなのか。
きっとみんなサービス精神旺盛なんだな。
僕はあったことをなるべくそのまま書きますから。サービス精神のかけらもない人なんでね。

僕は、どうもMさんの一件から、ちょっと不思議な体験をするようになった。
明らかに「うつされた」感じである。

大学2年生になった僕は、10年落ちのカローラというオンボロな自動車を買った。
遠くの家庭教師先に通うためという目的だったが、結局、ローンを払うために遠くの家庭教師先に
行かざるを得ないという本末転倒な貧乏地獄が幕を開けていた。

たしか1987年5月頃だった。家庭教師先から大学の研究室に戻ってきた僕は、
誰か現れないかと待っていたのだけど、その日に限って誰もこない。
僕は何度か先輩につれていかれたドライブコースを、ひとりで行ってみようと決めた。

高松市から11号を西に進み、鬼無を右に折れると「五色台」という山に続く。
ワインディング・ロードを進み山を越えると、眼下には当時開通したばかりの
瀬戸大橋の夜景が広がる走り屋のためのコースだ。

そして、心霊スポットとしても広く知られたエリアだったりする。
事故を起こした走り屋の幽霊がどうの、
山頂付近の電話ボックスにひき逃げされた霊がどうのと話題にことかかない。

その日は湿度が高くて、鬼無の交差点を曲がって少し上り坂になるあたりから、霧が出始めた。
T字路にさしかかる。右折すれば高松市方向へ戻る。
霧が僕を躊躇させたが、せっかく来たからという気持ちが勝って、五色台方面へ左折した。

すると……一気に霧が前方を遮った。「…やばいな」と思った。

ワインディング・ロードだからUターンするスペースはない。ゆっくり進むしか仕方がなかった。
いつもの倍以上の時間をかけて走っているのがわかった。
やがて、登りが終わることを示す電話ボックスを通過した。
この電話ボックスは、有名な心霊スポットである。
そりゃー怖かった。そちらをなるべく見ないようにして、カーステの音量を上げた。

噂のスポットでは何事も起こらず、霧が晴れ始めた。下りに入ったのだ。僕は安堵した。

車「ォーーーン、カツン」
僕「ん?」

180度ターンする九十九折りのカーブを抜けようとしたとき、アクセルが反応しない。
僕はすぐにエンストしていることに気が付いた。
惰性で下っている車を操作しながら、キーを回してエンジンをかける。

車「ブ、ブ、ブォーン」
僕「かかった!」

僕は少しビビっていた。オンボロだしな、僕も初心者だしな、と声に出してみた。

車「ォーーーン、カツン」
僕「!!」

マズイ。ひじょーに危険な感じがする。背筋が凍る。
マイ・カローラは、カーブにさしかかるたびに、エンストを起こしている。
ブレーキで減速→カーブ進入→加速しようとする→エンストしている→惰性で下る→エンジンかける
これを繰り返すことになる。

もうね、パニックですよ。そりゃね、幽霊?っつー想像もしましたがね。
ルームミラーは絶対に見なかったし。
それよりも、深夜濃霧の五色台でエンジン止まっちゃったらどうしよう、ってほうが怖かった。

なんとか坂出方面に抜けると、車は何事もなかったように快調になるのであった。

僕はしばらくの間、この話を誰にもしなかった。
自分の車の運転が下手だからと一笑に付されるのが嫌だったからだ。
しかし、ある先輩が怪談話として後輩に語って聞かせたもののなかに、
「五色台のエンストするカーブ」という話があった。
あるカーブにさしかかるとオートマ車でもエンストしたという。

この話を聞いて、僕はあの夜、なにかまずいものと交渉したのだろうと考えるようになったのだ。