アコギな雑感

麺とアコギをこよなく愛するデザイナーのブログ

闇夜で追われた話

奇妙、といえば思い出した。

僕は小学2年生から4年生のあいだ、近くの小さな武道場で剣道を習っていた。
おやじやおかんに強制的に通わされていた剣道を、僕は嫌いで仕方がなかった。
もともと運動が苦手&スポーツ嫌いというだけで理由は充分だろうが、
練習後に師範がおごってくれる牛乳が嫌いだったこともその要因だ。

そして、もうひとつ。暗い夜道を一人で帰らなければならないこと。

練習が終わるのは午後9時。昭和49年頃の田舎だから、夜は結構暗い。
僕が通る道は、人通りの少ない田んぼに挟まれたあぜ道だ。
舗装道と舗装道をつなぐあぜ道には、一本の街灯すらない。
それだけでも、おんな子どもには充分怖いのだが、このあぜ道のほぼ中間地点に
ふる~い納屋がある。そのあたりがいつも陰鬱で、誰かが潜んでいそうで不気味だった。

たしか、小学校3年生の秋だったんだろう。
月の出ていない真っ暗な夜だった。

僕は上下剣道着に、子どもには重すぎる防具を肩に担いで、その道にさしかかった。
目を伏せて納屋を過ぎたとき、左後方の田んぼに気配が走った。

稲を刈ったばかりの田んぼには、粉砕したワラが巻かれている。
その上を踏み荒らすような音が近づいてくるのだ。

バサササササ、ザ、ザ、ザ、…

「ハァ、ハァ、ハァ」

野犬だ。一頭じゃない、二頭はいる。
僕の左後方にピッタリついて、追ってくる。
重い防具を担いでいる小学三年の僕に為す術はない。ので、歌を歌ってみる。

「る~~る~~るるるるる~るる~~」

北の国から」ではない。当時、TBS系で放送していた「大岡越前」のテーマだ。
サムライ・チックな身なりだったから閃いた曲だったが、微妙だったのは言うまでもない。

これが功を奏したのか、僕はなんとか街灯のある舗装道に抜けることができたのだ。

それからしばらくした月明かりの夜。
僕はいつものように、防具を担いであぜ道にさしかかった。
そのとき、また僕の左後方で気配があった。

バサササササ、ザ、ザ、ザ、…

どうしよう。向こうの舗装道まではずいぶん距離がある。
もどろうか、いや、もどってもこの道を通らなければ、帰ることができない。
防具をおいて走って帰るか?犬の方が早いだろうな。

サ、ザ、ザ、ザ、…

音が、音が軽い気がする。もしかしたら、そんなに大きくないかもしれん。
僕は音の主を確認するために、振り向いた。


月明かりに白く照らされていたもの──。


白いニワトリが、こっちを見ていた。
僕は、軽く失禁した。