あんた、死相がでてるぜ。
人が死ぬ、と予感した話は書いた。今回は死相の話。
ふたむかし前のドラマなんかみていると、今じゃめっきり少なくなった街頭の占い師かなんかが、
でっかーい虫眼鏡で「おぬし、死相が出ておる」とかいうシーンが出て参りますな。
そんなもんだから、どうも死相って嘘くさいイメージがある。
実際、僕自身もぜんぜん信用していなかった。
●
僕が東京のデザイン制作会社で働いていた頃。
僕のひとつうえの先輩、といっても彼は高卒で僕は大学院卒だったから年下なんだけど、
同じ班に配属されて丸1年、結構うまくやっていた。
彼は僕のことを年上として一目置いてくれていたし、僕は彼を先輩として立てていた。
しかし、彼はデザインを専門的に学んだわけではなく、
次々と入ってくる専門系の後輩達に引け目を感じていたようだった。
彼は「独立する」といって退職したが、社内のアートディレクターから仕事を
回してもらうフリーランスになったというのが本当のところだ。
時々聞こえてくる消息も、仕事はあまり芳しくないとか、
せっかく回した仕事を断るようになったとか、よろしくない話ばかりだった。
●
そんなある日、彼が会社に遊びに来た。
僕やディレクター達数人でしばらく話をしていたが、毎日のように入稿作業があるなかで、
OBの突然の訪問にそう時間を費やすわけにはいかなかった。
僕は彼の顔に、黒い影というか、アザというか、そういうものを見ていた。
疲れてやつれているんだろうと思っていた。
だから別れ際に「がんばって」と投げかけた。彼は、力なくほほえんでいた。
●
僕「なんか、すごく疲れてるみたいでしたね」
デ「そう?元気そうだったじゃん」
僕「でも、なんか顔に疲れが出てたでしょ」
デ「そうか?わかんなかったなあ」
僕「うそ。なんか黒い影っていうか、アザともちがうけど、目の下のクマが広がったような、
殴られた後の鬱血のような、さ。なんともいえない顔色してたじゃないですか」
眉間を中心に黒い蛾が羽根を広げたような感じだった。
みんな気が付いていて、気を使って言わないだけかと思った。
どうも、みえていないらしいのだ。
●
それから、1ヶ月後。彼が地下鉄のホームから列車に飛び込んで死亡したと聞いた。
「がんばって」とかけた声が最後になった。ほかにかける言葉はなかったのかな。
忙しいといっても、聞いてあげられることはなかったのかな。
そして、彼の顔に見たものが、おそらく「死相」というものだろうと気が付いた。
●
数年前の12月28日、職場の後輩が交通事故で死んだ。
自家用車で対向車線のトラックと正面衝突だった。
僕はその数日前のクリスマス・パーティで、彼の顔に「死相」を見ていた。
ふたむかし前のドラマなんかみていると、今じゃめっきり少なくなった街頭の占い師かなんかが、
でっかーい虫眼鏡で「おぬし、死相が出ておる」とかいうシーンが出て参りますな。
そんなもんだから、どうも死相って嘘くさいイメージがある。
実際、僕自身もぜんぜん信用していなかった。
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僕が東京のデザイン制作会社で働いていた頃。
僕のひとつうえの先輩、といっても彼は高卒で僕は大学院卒だったから年下なんだけど、
同じ班に配属されて丸1年、結構うまくやっていた。
彼は僕のことを年上として一目置いてくれていたし、僕は彼を先輩として立てていた。
しかし、彼はデザインを専門的に学んだわけではなく、
次々と入ってくる専門系の後輩達に引け目を感じていたようだった。
彼は「独立する」といって退職したが、社内のアートディレクターから仕事を
回してもらうフリーランスになったというのが本当のところだ。
時々聞こえてくる消息も、仕事はあまり芳しくないとか、
せっかく回した仕事を断るようになったとか、よろしくない話ばかりだった。
●
そんなある日、彼が会社に遊びに来た。
僕やディレクター達数人でしばらく話をしていたが、毎日のように入稿作業があるなかで、
OBの突然の訪問にそう時間を費やすわけにはいかなかった。
僕は彼の顔に、黒い影というか、アザというか、そういうものを見ていた。
疲れてやつれているんだろうと思っていた。
だから別れ際に「がんばって」と投げかけた。彼は、力なくほほえんでいた。
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僕「なんか、すごく疲れてるみたいでしたね」
デ「そう?元気そうだったじゃん」
僕「でも、なんか顔に疲れが出てたでしょ」
デ「そうか?わかんなかったなあ」
僕「うそ。なんか黒い影っていうか、アザともちがうけど、目の下のクマが広がったような、
殴られた後の鬱血のような、さ。なんともいえない顔色してたじゃないですか」
眉間を中心に黒い蛾が羽根を広げたような感じだった。
みんな気が付いていて、気を使って言わないだけかと思った。
どうも、みえていないらしいのだ。
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それから、1ヶ月後。彼が地下鉄のホームから列車に飛び込んで死亡したと聞いた。
「がんばって」とかけた声が最後になった。ほかにかける言葉はなかったのかな。
忙しいといっても、聞いてあげられることはなかったのかな。
そして、彼の顔に見たものが、おそらく「死相」というものだろうと気が付いた。
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数年前の12月28日、職場の後輩が交通事故で死んだ。
自家用車で対向車線のトラックと正面衝突だった。
僕はその数日前のクリスマス・パーティで、彼の顔に「死相」を見ていた。