アコギな雑感

麺とアコギをこよなく愛するデザイナーのブログ

墓がボウボウ

僕のじいちゃんは神社の神主さんだった。
瀬戸内海のとある漁村、わりあい大きな格式ある神社だ。
名称や場所なんかを披露したほうが話は早いのだが、じいちゃん亡き後、
伯父が継いでいて何か迷惑があったらいけないので一応、伏せておく。

海にせり出した島のような高台に境内があった。
ながーい石段を上がっていくと、本殿、社務所、住居がある。
今でこそ海縁が埋め立て舗装されてしまったが、
昔は6階くらいの高さに相当する住居の窓の下は海だった。

この場所は、篠田正浩監督『悪霊島』(1981)のロケにも使われたので、
金田一ファンにはわかるかもしれない。

じいちゃんや伯父さんは、僕や妹をたいそう可愛がってくれたが、
僕は神社が怖くてあまり行きたい場所ではなかった。

タダでさえ怖がりな僕に、神主じいちゃんが怖い話をするんだからダメだ。
しかも、人から聞いた話は信用せず、自分の体験ばかりだからえげつない。
ま、このへんが孫も一緒なんですけどね。

で、僕も聞かなきゃ良いのに、聞くんですな。
僕「おじちゃん、人魂ってみたことあるん?」
お「そりゃおめぇ、じいちゃんの人魂話きいたら、ひっくりけえるでぇ」

昭和二十年頃、寺も神社もない近隣の島で死者が出ると、じいちゃんが呼ばれた。
「神主が葬式」というのも不思議だが、神道の葬式はちゃんとある。
葬式をして岬にあるお墓に埋葬した。当時、瀬戸内海の島ではどこも土葬だった。
そのあと、遺族の住居で飯が振る舞われ、帰路につく。

手こぎの木船に船頭さんが付いて、神主を港まで送っていく。
えっちら、おっちら。

あたりはもう真っ暗だ。しとしと降っていた雨は、やがて豪雨になった。
えっちら、おっちら。やがて、島の山蔭が切れて、岬が見えた。

船頭「神主さん、ありゃぁ、どうしたことじゃろうの」
見ると、さきほど埋葬した墓が燃えている。
そう、墓石全体が青白い炎でボウボウと燃えていたのである。

爺「そりゃ、ビックリじゃ。ボウボウじゃ、ボウボウ」
僕「それ、人魂なん?」
爺「豪勢な人魂じゃわな。雨の中でな、ボウボウじゃけん」
僕「ボウボウ、か」

きっと、すごいボウボウだったに違いない。