墓がボウボウ
僕のじいちゃんは神社の神主さんだった。
瀬戸内海のとある漁村、わりあい大きな格式ある神社だ。
名称や場所なんかを披露したほうが話は早いのだが、じいちゃん亡き後、
伯父が継いでいて何か迷惑があったらいけないので一応、伏せておく。
海にせり出した島のような高台に境内があった。
ながーい石段を上がっていくと、本殿、社務所、住居がある。
今でこそ海縁が埋め立て舗装されてしまったが、
昔は6階くらいの高さに相当する住居の窓の下は海だった。
この場所は、篠田正浩監督『悪霊島』(1981)のロケにも使われたので、
金田一ファンにはわかるかもしれない。
●
じいちゃんや伯父さんは、僕や妹をたいそう可愛がってくれたが、
僕は神社が怖くてあまり行きたい場所ではなかった。
タダでさえ怖がりな僕に、神主じいちゃんが怖い話をするんだからダメだ。
しかも、人から聞いた話は信用せず、自分の体験ばかりだからえげつない。
ま、このへんが孫も一緒なんですけどね。
で、僕も聞かなきゃ良いのに、聞くんですな。
僕「おじちゃん、人魂ってみたことあるん?」
お「そりゃおめぇ、じいちゃんの人魂話きいたら、ひっくりけえるでぇ」
●
昭和二十年頃、寺も神社もない近隣の島で死者が出ると、じいちゃんが呼ばれた。
「神主が葬式」というのも不思議だが、神道の葬式はちゃんとある。
葬式をして岬にあるお墓に埋葬した。当時、瀬戸内海の島ではどこも土葬だった。
そのあと、遺族の住居で飯が振る舞われ、帰路につく。
手こぎの木船に船頭さんが付いて、神主を港まで送っていく。
えっちら、おっちら。
あたりはもう真っ暗だ。しとしと降っていた雨は、やがて豪雨になった。
えっちら、おっちら。やがて、島の山蔭が切れて、岬が見えた。
船頭「神主さん、ありゃぁ、どうしたことじゃろうの」
見ると、さきほど埋葬した墓が燃えている。
そう、墓石全体が青白い炎でボウボウと燃えていたのである。
●
爺「そりゃ、ビックリじゃ。ボウボウじゃ、ボウボウ」
僕「それ、人魂なん?」
爺「豪勢な人魂じゃわな。雨の中でな、ボウボウじゃけん」
僕「ボウボウ、か」
きっと、すごいボウボウだったに違いない。
瀬戸内海のとある漁村、わりあい大きな格式ある神社だ。
名称や場所なんかを披露したほうが話は早いのだが、じいちゃん亡き後、
伯父が継いでいて何か迷惑があったらいけないので一応、伏せておく。
海にせり出した島のような高台に境内があった。
ながーい石段を上がっていくと、本殿、社務所、住居がある。
今でこそ海縁が埋め立て舗装されてしまったが、
昔は6階くらいの高さに相当する住居の窓の下は海だった。
この場所は、篠田正浩監督『悪霊島』(1981)のロケにも使われたので、
金田一ファンにはわかるかもしれない。
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じいちゃんや伯父さんは、僕や妹をたいそう可愛がってくれたが、
僕は神社が怖くてあまり行きたい場所ではなかった。
タダでさえ怖がりな僕に、神主じいちゃんが怖い話をするんだからダメだ。
しかも、人から聞いた話は信用せず、自分の体験ばかりだからえげつない。
ま、このへんが孫も一緒なんですけどね。
で、僕も聞かなきゃ良いのに、聞くんですな。
僕「おじちゃん、人魂ってみたことあるん?」
お「そりゃおめぇ、じいちゃんの人魂話きいたら、ひっくりけえるでぇ」
●
昭和二十年頃、寺も神社もない近隣の島で死者が出ると、じいちゃんが呼ばれた。
「神主が葬式」というのも不思議だが、神道の葬式はちゃんとある。
葬式をして岬にあるお墓に埋葬した。当時、瀬戸内海の島ではどこも土葬だった。
そのあと、遺族の住居で飯が振る舞われ、帰路につく。
手こぎの木船に船頭さんが付いて、神主を港まで送っていく。
えっちら、おっちら。
あたりはもう真っ暗だ。しとしと降っていた雨は、やがて豪雨になった。
えっちら、おっちら。やがて、島の山蔭が切れて、岬が見えた。
船頭「神主さん、ありゃぁ、どうしたことじゃろうの」
見ると、さきほど埋葬した墓が燃えている。
そう、墓石全体が青白い炎でボウボウと燃えていたのである。
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爺「そりゃ、ビックリじゃ。ボウボウじゃ、ボウボウ」
僕「それ、人魂なん?」
爺「豪勢な人魂じゃわな。雨の中でな、ボウボウじゃけん」
僕「ボウボウ、か」
きっと、すごいボウボウだったに違いない。