アコギな雑感

麺とアコギをこよなく愛するデザイナーのブログ

美談は奇譚。

想像してみて欲しい。
嵐の夜、風呂場の窓の外に、ずぶぬれで血を垂らした男が立っていることを。
きゃ~~~~~~なのである。このシチュエーションだけで。

僕のじいちゃんが神主だったことはすでに触れた。
そして、その神社の立地が次のようなものであったことも記した。
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海にせり出した島のような高台に境内があった。
ながーい石段を上がっていくと、本殿、社務所、住居がある。
今でこそ海縁が埋め立て舗装されてしまったが、
昔は6階くらいの高さに相当する住居の窓の下は海だった。
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僕は、じいちゃんの怖い話がほんとーに怖くて、あまりこの神社に行きたがらなかった。
それどころか、中学生になってもなるべく「日帰り」するようにしていた。
なぜなら、このお家の風呂と便所がたいへん怖かったからである。

僕が小学生の頃にあった話だ。

このうちの南側の窓の外は、崖だ。崖の下はゴツゴツとした岩場で波が押し寄せている。
だから、風呂も便所も覗かれる心配がないので、大きいガラス窓がある。
天気の良い日などは、青い海と瀬戸内海の島々を見下ろすロケーション。

台風が近づいた嵐の夜、おじちゃんが風呂に入っていた。
気配を感じて窓の外をみると、そこにずぶぬれで血を滴らせた男が立っていた。
おじちゃんは幽霊かと思った。が、消えるふうがない。

すぐに神主のじいちゃんに知らせた。
じいちゃんは、この男に声をかけ、家に入れた。
聞けば、自殺をこころみて境内から飛び降りたという。
死にきれず崖を登ると、そこは人様の風呂場の窓だったというわけ。

じいちゃんは、その後、食事と少しの金を与えたという美談として、僕に話したのだが…。
僕はその話を聞いて、この家の風呂場と便所の窓をみることができなくなり、
じいちゃんちに寄りつかなくなったという有り様。

じいちゃん、残念。