アコギな雑感

麺とアコギをこよなく愛するデザイナーのブログ

讃岐うどんが合わない人

本場讃岐うどんを食べに行くなら、と何人もの知り合いに聞かれ続けて早十数年。最初の頃は、一般店で600円程度のうどんを体験してもらい、セルフ系→製麺所と徐々にディープへ誘うという方法だった。今では最初からディープじゃないと話が進まない。自分が好きな店はあるけれど、紹介する時はやはり個性が強い店のほうがウケがよいので、穴場の王道というか人気店に集中するのも仕方がないですな。

新潟ラーメンといえば燕市の「杭州飯店」や「福来亭」は基本だとか、富山ブラック系といえば「大喜」を抜きに語れないとかあるわけ。だから、穴場讃岐うどんを紹介するとして「山越」や「宮武」は外せないわけだ。

ところが、である。そうした、およそ人気店になった後も味を落とさない店で食したにもかかわらず、口に合わなかったとか、たいしたことはなかったという知り合いもいる。正直でよろしい。が、電車で岡山の旅を画策していたO夫婦に「そこまで行くなら讃岐うどんにしたまえ」とか言ってその気にさせて、レンタカーを借りさせた僕の立場は、もはやない。

うどん巡礼経験者よ、紹介する時は気をつけよう。うどん巡りを画策している初心者よ、あなたのお口に合うかしら。ということで、この正直もんO夫婦を題材にして、讃岐うどんが合わない人を分析してみよう。

【その1●いりこだしが口に合わない】
O夫婦の嫁は青森県出身だ。彼女が言うには「だし」のにおいが気になってダメだったらしい。香川県では伊吹島がいりこの一大産地なので、生活の中心になるだしだったりする。関西でも使うことはあるが、ほぼ「合わせだし」である。関東文化圏ではほとんど使わないので、注意が必要だ。「かけ」を食べてダシが合わないと感じたら、2食目からは「かけだし」を避ければよろしい。O夫婦のように全て「かけ」で制覇しようと考えてはいけない。

【その2●期待しすぎるな、うどんはうどんだ】
世の中には、脳内で情報を反復し、誇大な妄想にとらわれていく人がいる。そんなに珍しいことではない。例えば、通販の商品を購入してすぐ飽きてしまうような人には、その傾向があると見ていい。O夫婦はそのケがあった。僕が紹介したサイトの情報を2晩かけて熟読し、一日8件の強行スケジュールを立てた。「うどんの刺身」とか「うどんとは思えない」とか「これはうどんではなく、讃岐うどんという料理」などの経験者の言葉が、夫婦の讃岐うどん観を変えた。…えーと、うどんはうどんですから。しかも、一杯200円くらいの料理ですから。どっかの料亭で出てくるようなグルメなものを想像してはいかんな。

【その3●麺を喰う料理だ】
世の中には、麺を愛してやまない人と麺をごはんの替わりくらいに考えている人の二通りがある。O夫婦は後者であった。麺をごはんの替わりと考えている人は、「おかず」や「スープ」に重きを置く。極端な話、ラーメンも「スープ」ありきな側面がある。例えばパスタを食べにいって、麺よりも具やソースで選ぶ人は要注意。讃岐うどんは「麺」が全てだ。パスタでいえばガーリックオイルと塩こしょうだけで麺を味わうのに似ている。それが「信じられなぁ~い」という人は、讃岐うどんを楽しめないかもしれない。

【その4●異文化を理解する肝要さ】
讃岐うどんが全国区になった最大の理由は、麺のうまさ以上に食文化としての異質さ、店の異質なスタイルが目をひいたということに尽きるだろう。だから、そもそも自分の勝手知ったる常識が、日本全国どこでも通じると思い込んでいる人には理解できないかもしれない。製麺所スタイルの店に一般店並のサービスを求めてもいかん。セルフの店でうどん取る前に席だけ確保するヤツとか(これについては腹が立っているので後日改めて書く)。ざるうどん喰った後に「そば湯」いうてるやつとか。

讃岐うどんも食べ物である以上、好き嫌いがあって当然。人に薦める時はくれぐれもご注意を。