アコギな雑感

麺とアコギをこよなく愛するデザイナーのブログ

旨い中華にご用心、なのだ。

貧乏な大学時代の、笑うには痛すぎる話をしておこう。

大学3年の正月、祖父ちゃんの三回忌と祖母ちゃんの一周忌をかねて、いつもは会えないような(実際、それが最後だったり…)親戚が一堂に会した法事があった。母のいとこ、という20歳以上離れたおじさんに会ったのも初めてだった。

僕はその日のうちに瀬戸内海を渡って、高松市のアパートに帰っておく必要があった。そのおじさんも、高松市で仕事をしているということで、一緒に岡山を後にした。

おじさんは僕の切符も買ってくれた。瀬戸大橋を渡る快速マリンライナー。自由席で充分座れるのに、グリーン車をとってくれた。瀬戸大橋を渡る快速のリッチな席は、暗闇と坂出のコンビナートを望むように進行方向に向かって90°回転する。お世辞にも若いとはいえないおじさんは、いとこの息子に「大人の見栄と格好良さ」を教えてくれたのだ。

高松駅で別れ際、困ったことがあったら電話をするようにと名刺をくれた。それと、もう一つ。ワシントンホテルの最上階にある中華料理屋の商品券。これで10,000円は食られる、という。ベビースターラーメンを茹で溶かして食っていた僕にはなんと贅沢なチケットか!

入り浸っていた大学の研究室に戻った僕は、仲の良い先輩に言った。
得意満面、「中華料理、食べに行きませんか」ってね。

数日後、ワシントンホテルの最上階に、僕たちはいた。無精ひげに寝癖の残った頭、ずらっとしたコートを羽織った僕と、ケミカルウォッシュのジーンズをはいた先輩は、一人5,000円のコースを頼んだ。600円の定食に躊躇していた頃である。もう、へんな宝くじを当てた勢いで、懐の商品券ばかりが気に掛かる。

先輩「商品券が<割引券>だったってことは、ないよのうぉ(笑)」
僕 「そんなことはないですって、確かめたモン、ほら」
先輩「おお、10,000円やの、マジで」
僕 「でしょ!も、今日は食っちゃうぞ!フカヒレもかぁああ!」

…… 。フリーズ。


僕は自分の目を疑った。有効期限「二月から」と書いてある。今はまだ一月。ま、まじ!?僕も先輩も青ざめた。あわてて財布を確認すると、バイト代が出たばかりの彼の財布には8,000円、帰省したばかりの僕の財布には3,000円。

セーフ。せぇ~~ふ。

一人5,000円(当時、消費税はまだなかった)で足りる。僕らは黙々と出された料理を確実に平らげていくのだが、そこに味わうゆとりも、至福の表情もない。二人の財布の合計が10,000円を超えていた奇跡の出来事に感謝していたのだ。

僕はテーブルに着いたビジュアルを今でも覚えているんだけど、何を食べたか、まるっきり覚えてないんだよね。よほど、ビビッたんだろう。その後、「有効期限」に入ったもののそのチケットを使うことはありませんでした。とほほ。

人生、経験なんです、たぶん。