アコギな雑感

麺とアコギをこよなく愛するデザイナーのブログ

だんだん爺の床屋、なのだ。

「だんだん」松江市近郊の方言で「ありがとう」の意味である、ということはすでに記した。そこで思い出したのが、島根県に移り住んだ6年前、はじめて訪れた床屋のこと。

初めて住む町で、お隣さんへの挨拶やら住民票やら買い物やらして一段落した頃に、ふと気になるのが床屋や美容院である。どこが良いかと聞けるほどの親しい人もおらず、これから常連になるであろう一件の店を見つけるのは至難の業だ。

僕はとことん身なりにこだわらない。

寝癖のままで仕事に行くことも珍しくない。ヒゲを剃るのも1週間に一度でちょうどいい。だから、小綺麗な理髪店の三件向こうに「昭和」を連想させる古びた床屋を見つけた時、まよわずその床屋に入ったのも道理である。

ガラガラガラ、と戸を開ける。おばあさんが「いらっしゃい」と立ち上がって、奥からおじいさんが現れる。僕はすぐに椅子に腰掛ける。おじいさんは霧吹きで髪に水をくれてやると、おもむろに切り始めた。かなりキツイ方言で天気の話とかするのだけど、ほとんど意味がわからない。

え~と、じいさん。僕の髪型、なにも聞かずに切ってますけど、ええんやろか。

ま、ええんである。じいさんがどんな髪型にしてくれるのか興味があって、任せてみた。できあがった髪型は、キノコっぽいものではあったが、許容できる範囲(?)なので一安心。待合いのテーブルに、ばあさんが入れてくれた緑茶が用意してあって、おきまりのタバコを勧められる。まさしく昭和の床屋である。

店を出るとき、二人が「だんだん」というのを聞いた。ヘンに「ここらの方言ぞ」という気張りもなく自然な雰囲気に、また来ても良いかな、と思った。次は髪型に注文をつけないといけないが。


ところが、その後じいさんが亡くなり、店があった場所はアパートになってしまった。一度かぎりの床屋になってしまったが、一度でも行っておいて良かった、と思った。