中華そば、百万両本店。
倉敷の老舗「百万両本店@倉敷市連島中央」は僕の麺人生の原点。
この区分で言うと、僕の実家は「倉敷」で古くから住み着いた農家。一方の「水島」は戦前戦中の軍需工場に由来する朝鮮人労働者や、戦後の炭鉱閉鎖にともない重工業へ転身する労働者の受け皿として、他所から流入した人々の多い地域だった。
水島はその名前のとおり、中世から近世にかけて埋め立てられた土地。連島は現在の太平山が島だった頃からそのふもとに位置して、歴史的にも古い文化を持つ土地だ。
そうした文化や人々が拮抗する境界に位置する老舗のラーメン屋というわけ。
今では餃子や大盛りなどのメニューが増えているが、もともと「中華そば」しかなくて、注文しなくても人数分のラーメンが出てくるとか、勘定をテーブルの上に払い、釣り銭が必要ならそこから自分で取っていく独特のスタイル。これは労働者がサッと入って腹を満たすスピードとともに、日本語がつたない客や他所の方言を気にする人々に、気兼ねなく食べてもらうという理由があったのかもしれない。
僕は「水島」に位置する高校へ進学した。
さまざまな背景を背負った友だちも少なくなかった。とてもお洒落で無口な青年は、朝鮮人学校から進学していたから日本語が上手くないので無口だと知った。父親の仕事の関係で引っ越しを繰り返した友人たちは、幼少期に炭鉱で生活した経験を持っていた。
そんな友人たちと部活帰りに立ち寄った、記憶に残るラーメンがこの百万両の中華そばなのだ。